東京高等裁判所 昭和56年(行コ)25号 判決 1983年11月18日
第二五事件被控訴人・第三〇号事件控訴人(第一審原告) マルタ工業株式会社
第三〇号事件被控訴人(第一審被告) 伊那税務署長
第二五号事件控訴人(第一審被告) 国税不服審判所長
代理人 桜井登美雄 星川照 ほか四名
主文
一 原判決中、第一審被告国税不服審判所長の敗訴部分を取り消す。
二 第一審原告の第一審被告国税不服審判所長に対する請求を棄却する。
三 第一審原告の控訴を棄却する。
四 訴訟費用は第一、第二審を通じて第一審原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 第一審原告
(控訴の趣旨)
1 原判決中、第一審原告の敗訴部分を取り消す。
2 第一審被告伊那税務署長(以下「第一審被告税務署長」という。)が昭和五一年一〇月一四日付でした「控訴人の昭和四八年九月一日から同四九年八月三一日までの事業年度分法人税に関する重加算税二一八万八、五〇〇円の賦課決定処分」を取り消す。
3 訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告税務署長の負担とする。
(第一審被告国税不服審判所長((以下「第一審被告審判所長」という。))の控訴の趣旨に対する答弁)
第一審被告審判所長の控訴を棄却する。
二 第一審被告税務所長
(第一審原告の控訴の趣旨に対する答弁)
主文第三項と同旨。
三 第一審被告審判所長
(控訴の趣旨)
1 主文第一、第二項と同旨。
2 訴訟費用中、第一審において第一審原告と第一審被告審判所長との間に生じた部分及び第二審において生じた部分は第一審原告の負担とする。
第二当事者の主張
次に付加・訂正するほかは、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決中の字句の訂正)
1 原判決三丁表一一行目に「をして、」とあるのを「において」と改め、同丁裏七行目の「経ずに」のあとに「、」を付し、同じ行の「被告審判所長に対し」のあとの「、」を取る。
2 同四丁表三行目に「法人税法第一三〇条第二項」とあるのを「法人税法一三〇条二項」と、同丁裏二行目に「(法第六五条一項)」とあるのを「(法六五条一項)」と、同七行目に「(法第六八条一項)」とあるのを「(法六八条一項)」と、同五丁裏三行目に「国税通則法第六八条一項」とあるのを「国税通則法六八条一項」と、同七丁表五行目に「より」とあるのを「から」と、同一三行目に「取消」とあるのを「取消し」とそれぞれ改める。
3 同一〇丁表二行目及び八行目に「あて」とあるのを「宛に」と改め、同一二丁表四行目の「法人税は」のあと及び五行目の「加算税は」のあとの「、」を取り、同六行目に「ることと」とあるのを「ると」と改める。
4 同一三丁表八行目及び九行目に「行なわ」とあるのを「行わ」と、同丁裏六行目に「法施行令第五九条二項」とあるのを「法施行令五九条二項」と、同一〇行目に「乃至」とあるのを「ないし」と、同一四丁表一〇行目に「人税法第八二条」とあるのを「人税法八二条」と、同丁裏九行目及び一一行目に「誤まつた」とあるのを「誤つた」と、一二行目に「行なつた」とあるのを「行つた」とそれぞれ改め、同一五丁表一行目の「経ずに」のあとに「、」を付し、同九行目に「もとづいて」とあるのを「基づいて」と、同一三行目に「通則法第一一二条にもとづいて」とあるのを「通則法一一二条に基づいて」と、同丁裏一一行目に「法第一一二条」とあるのを「法一一二条」と、同一二行目に「取り消し」とあるのを「取消し」とそれぞれ改める。
5 同一六丁裏六行目の「否認し」のあとに「、」を付し、同一七丁裏六行目及び一八丁裏九行目に「国税不服審判所長」とあるのを「審判所長」と、同一一行目に「明僚」とあるのを「明瞭」とそれぞれ改める。
(第一審被告審判所長の当審における陳述)
1 国税不服審判所において本件審査請求の収受手続を担当したのは管理課総務係員大蔵事務官太田泰夫であり、同事務官は所定の形式審査表に照らして項目ごとに逐一補正事項の有無を点検し、原処分庁に答弁書(ただし、本件審査請求については、これに代えて審査請求を不適法と認める理由を記載した書面=却下の理由書)、本件原処分関係処理経過表及び形式審査に資するために必要な書類の提出を求めたうえ、審査請求書等の一件書類を形式審査担当者に回付した。形式審査を担当したのは法規審査部門の大蔵事務官中村和夫審査官であり、同審査官は、回付を受けた昭和五二年二月一八日、右一件書類につき内部的な書面審査を実施した。その結果、同審査官は、本件原処分は減額更正処分であつて不利益処分ではないから、これに対する審査請求は不適法であることが明らかであるため、その旨を形式審査表の所定欄に記載したものであり、(1)本件審査請求には所定の審査請求書用紙が使用され、書面の表題には「法人税の審査請求書」、提出先としては、裁決固有の機関としての「国税不服審判所長」の記載があるほか、国税通則法八七条一項各号及び二項に規定する審査請求書に記載すべきものとされている事項の記載があること、(2)右書面には請求の趣旨及び理由欄に「更正の請求を求む」とか、「法人税法八二条」等の記載はあるが、国税通則法二三条三項に規定する更正の請求書に記載すべきものとされている事項の記載がないこと、(3)右書面には税務の専門家である花輪清二税理士の氏名押印があり、過去において所定の審査請求書用紙を用いて更正の請求をした例はなく、ましてや更正の請求が国税不服審判所長宛にされるなどという事例は皆無であつたこと等からすれば、同審査官が右書面について更正の請求書ではないかとの疑問を抱くことなく、これを審査請求書と認めたのは当然のことである。
一方、第一審原告は、本訴の提起に至るまでは右書面をもつてした請求が国税通則法二三条一項、法人税法八二条の規定による更正の請求であるなどとは何ら申し述べたことはなく、一貫して右書面により審査請求をしたことを認め、あるいはこれを前提とした対応をしていたのである。すなわち、第一審原告は、本件賦課決定処分に対する審査請求については原処分庁の答弁書副本、担当審判官の指定通知書の送付を受けたが、本件審査請求についてはこれらの書面の送付がなく、また、右前者の審査請求の審理について国税不服審判所長長野支所からの電話連絡の際、同支所の応対の様子から本件審査請求については原処分が減額更正であるための審査請求として審理しない意向であることをうかがい知つたのに、前記書面をもつてした請求は更正の請求であること、これについて審判所での審理がなされないのであるならば、第一審被告税務署長に送付すべきであることなどの申出は一切しなかつた。かえつて、昭和五二年四月一八日、右前者の審査請求について審理のための調査が行われた際、立ち会つた第一審原告代表者及び本件審査請求についての第一審原告の代理人でもある花輪清二税理士は、係官から、本件審査請求は不適法として却下されると思う、といわれたのに対し「そうですか。その通知はいただけるのですね。分りました。」と応えている。これらのことからすれば、第一審原告は前記書面をもつて減額更正処分に対する審査請求をしたことは明らかであり、そうでなければ、右調査の際、花輪税理士らは、右書面でした請求は更正の請求であり、審判所での審理が行われないのなら第一審被告税務署長に送付すべき旨の申出をした筈である。以上の諸事実に照らせば、第一審原告は、前記書面によつて審査請求手続による救済を積極的に意図したものであつて、更正の請求をする意思は有していなかつたことが明らかである。
したがつて、第一審被告審判所長が第一審原告の前記書面による請求を更正の請求と解さなかつたことには何ら違法はない。
2 仮に前記書面による請求を更正の請求と解すべきであるとしても、右請求は更正の請求としての要件を備えていないのであるから、これを不適法な審査請求として却下しても第一審原告に特段の不利益を与えるものではなく、本件裁決には取り消されるべき違法は存しないというべきである。すなわち、
(1) 国税通則法二三条一項は更正の請求についての一般的要件を定めているところ、固定資産の減価償却費は法人の決算において損金算入の措置がとられること、すなわち、法人の意思によつてこれが確定するわけであるから、確定申告において右減価償却費を損金としなかつたため、納付すべき税額が過大となつたことを理由として更正の請求をするためには、当該申告にかかる事業年度の法人の決算においてこれを損金に算入するための措置がとられていることが必要である。しかるところ、第一審原告の五〇年八月期の決算においては、本件設備にかかる租税特別措置法四五条一項の規定に基づく減価償却(特別償却)費を損金に算入するための措置はとられていないのである。
(2) また、法人税法八二条は国税通則法二三条一項に規定する更正の請求についての特例を定めるものであるところ、税務上本件設備にかかる特別償却費を第一審原告の四九年八月期の損金とすることが否認されたからといつて、同法条によりこれが当然に翌五〇年八月期の損金とすることが容認される関係にあるものではない。固定資産の減価償却費が税務上損金として容認されるためには、これが法人の当該事業年度の確定した決算において損金に算入するための措置がとられていることを必要とするからである。のみならず、租税特別措置法四五条一項の規定に基づく特別償却は、普通償却のように翌期以後においても引き続いて行われるものではなく、当該工業用機械等の取得等があつた事業年度においてのみ認められるものであるから、これが或る事業年度の損金として算入することを更正等により否認されたからといつて、税法上当然に翌期以後の損金とすることが容認される関係にないことも明らかである。
(3) 更に、租税特別措置法四五条の規定の適用を受けるためには同条二項で準用する同法四三条二項の規定により確定申告書に償却限度額の計算に関する明細書を添付しなければならないとされているところ、第一審原告は五〇年八月期の確定申告書に本件設備にかかる右明細書を添付していない。そうすると、同法四五条二項には同法三五条三項のように確定申告書に当該明細書の添付がなかつたことについてのゆうじよ規定がないから、第一審原告が五〇年八月期において本件設備につき同法四五条の規定に基づく特別償却の適用を受けられないことは明らかである。
なお、第一審原告が五〇年八月期の確定申告書に右明細書を添付しなかつた理由が四九年八月期の確定申告書にこれを添付したところ、右申告に対する更正処分が五〇年八月期の確定申告期限後にあつたためであるとしても、このことは前記法条の適用の有無に直接の関連を有しない。
以上の次第であつて、第一審原告の前記書面による請求を更正の請求と解したとしても、右請求は更正の請求としての要件を具備せず、もともと容認される余地のないものである。
3 第一審原告は、五〇年八月期の決算において当該事業年度中に取得した本件設備以外の機械等について簡便償却の方法による減価償却を行つている。そうだとすれば、本件設備の減価償却についても普通月割償却の方法によることは許されず、簡便償却の方法によるべきことは法人税法施行令五九条一、二項の規定の文言に照らして明らかである。
(第一審原告の反論)
1 第一審原告が第一審被告審判所長宛に提出した書面は確かに審査請求書用紙が使用されているが、その記載内容からすれば、これが審査請求ではなく、更正の請求であることは容易に判読できるものである。したがつて、中村審査官としては、請求手続に税理士が関与していながら請求の内容と書式とが齟齬を来していることに当然疑問を抱き、その原因を調査すべきであつた。そうしていれば、これが原処分庁の誤つた教示にあることが発見でき、その段階で右請求を更正と解して第一審被告税務署長に送付することができた筈である。第一審原告は、第一審被告税務署長の誤つた教示により本件設備についての特別償却を五〇年八月期で容認してもらうためには審査請求の手続によらなければならないと信じていたのであり、その責任はもつぱら第一審被告税務署長の側にある。
2 法人税法八二条の規定に基づく更正の請求は、或る事業年度の確定申告書に記載された税額等の金額について更正等があつたことに伴い、それ以後の事業年度の確定申告書に記載した税額が過大となる場合に認められるのであつて、この場合、後の事業年度の損金として容認される金額が法人の当該事業年度の確定した決算において損金経理がされているかどうかとは関係がないのである。確かに、確定した決算において損金経理をすべきであるのにしなかつたり、確定申告書に添付すべき明細書等の添付を怠つたことを申告後に気付いたような場合にまで、国税通則法二三条一項の規定に基づく一般の更正の請求を認めることは、税務行政の安定を妨げ、一定の日時を限つて納税申告をさせる現行制度の根本を歪めるものとしてこれを許さないのが妥当かも知れない。しかし、法人税法八二条は、同条所定の要件を具備するときは、法人の確定した決算において損金経理がされているかどうか、確定申告書に所定の明細書等が添付されているかどうかなどとは関係なく更正の請求を認めることとした特例であり、ここに右法条の特例たる所以がある。このように同法条に基づく更正の請求は、一般の更正の請求の要件とはかかわりなく、同法条所定の要件を具備するときに認められるのであつて、第一審被告審判所長の主張はこれをことさらに一般の更正の請求と結び付けた議論である。
3 右のことは固定資産の減価償却の方法を簡便償却から月割償却に変更することについても妥当する。すなわち、一般の更正の請求としてはこのような変更は許されないとしても、法人税法八二条の規定による更正の請求の場合にはこれを認めるのが、まさに特例の特例たる所以である。
第三証拠 <略>
理由
一 当裁判所は、第一審原告の第一審被告らに対する請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきであると判断するが、その理由は、次に付加・訂正するほかは、原判決理由説示(原判決二二丁表二行目冒頭から同三二丁裏七行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二二丁表六行目の「異」のあとに「な」と付け加え、同丁裏六行目に「<証拠略>」とあるのを「<証拠略>」と改め、同七行目の「<証拠略>」のあとに「<証拠略>」と付け加える。
2 同二三丁表四行目に「二部を」とあるのを「二部」と改め、同五行目に二か所ある「工場日報」のあとにそれぞれ「(綴)」と付け加え、同六行目の「経理担当者」から「右横山が」までを「調査の際右横山が経理担当者の机の上に存置されているのを」と、同七行目及び一一行目に「部分」とあるのを「分」と、同丁裏一行目から二行目にかけて「あつたが」とあるのを「あり」と、同二行目に「各同日付」とあるのを「各同日分」と、同六行目に「判明したが」とあるのを「判明したこと。しかし」と、同七行目の「本件設備」から末尾までを「右横山からこの点について質されても本件設備の実際の納入日が申告とは違うことを認めなかつたこと。」と、同二四丁表六行目に「これに従う」とあるのを「これを受け容れる」と、同二五丁表五行目に「取締役会にも何度か相談したうえ」とあるのを「何度か取締役会の議題にも供したうえ」と、同七行目の「アメリカへ」から八行目の「行かせ」までを「コンクリート製造設備の視察のためアメリカへ派遣し」と、同丁裏六行目に「たこと。」とあるのを「たためであり、」と、同二六丁表二行目の冒頭から三行目の「事務所」までを「自宅からさほど遠くない場所にある工場」とそれぞれ改める。
3 同二六丁表一二行目の「以上の」から「すれば」までを「以上の争いのない事実及び各認定の事実によれば」と、同丁裏二行目から三行目にかけて「納品書などに実際の納入日などと」とあるのを「納品書等に実際とは」とそれぞれ改め、同五行目の「本件設備につき」のあとに「租税特別措置法四五条の規定に基づく」と付け加え、同七行目に「提出し」とあるのを「提出したこと」と、同一三行目の「<証拠略>」から同二七丁表二行目の「照らし」までを「<証拠略>は、前記認定の事実に照らして、とくに右代表者において本件設備が納入され、かつ事業の用に供された実際の時期及び確定申告の内容を熟知していなかつたというのはいかにも不自然であり」と、同三行目に「右推認事実」とあるのを「右推認」と、同四行目に「本件確定申告の誤まりが、」とあるのを「前記二・1の確定申告は」とそれぞれ改め、同六行目の「事実」のあとに「、」を付する。
4 同二七丁裏一二行目に「理由の」とあるのを「理由が」と、同二八丁表八行目に「取消」とあるのを「取消し」とそれぞれ改める。
5 同二九丁表六行目冒頭から同三二丁裏七行目末尾までを次のとおり改める。
「二 当事者間に争いのない前項記載の事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
1 第一審原告は、本件減額更正処分に対する不服申立手続を花輪清二税理士に委任し、その実際の手続は同税理士のもとで税理士業務に従事している若林進税理士が行つたこと。
2 第一審原告が本件減額更正処分を不服としたのは、(1)四九年八月期の確定申告でした本件設備についての特別償却が、本件設備が取得され、かつ事業の用に供された時期が昭和四九年九月以降であることを理由に否認されたところ、そうだとすれば、右特別償却についての申告の効果は、翌五〇年九月期の確定申告に引き継がれるべきであること、(2)四九年八月期で右特別償却が否認され、翌期でもこれが認められないとすれば、第一審原告は翌五〇年八月期では期中に取得した本件設備を含む固定資産の普通減価償却について簡便償却の方法ではなく普通月割償却の方法によつた筈であるのに、四九年八月期の確定申告に対する更正処分が翌五〇年八月期の確定申告期限の後にあつたためこれが不可能であつたこと、したがつて、以上(1)、(2)のいずれによるにしても、四九年八月期において本件設備について特別償却が否認されたこととの関連で翌五〇年八月期においては申告にかかる税額等について本件減額更正処分で認められたのよりも大幅な減額がされるべきであるにもかかわらず、右(1)、(2)のいずれかの点に関連した減額更正が本件減額更正処分ではされていない、ということにあつたこと。
3 そこで、若林税理士は、右の見解のもとに、伊那税務署と右(1)、(2)のいずれかの点との関連で更に減額更正処分をするか、あるいは第一審原告からの更正の請求を認めるなどして、五〇年八月期において四九年八月期で本件設備についての特別償却を否認したことによる調整処置を講ずべきである旨の折衝をしたが、右(1)、(2)の点について税務当局と租税法規の解釈を異にし、当局の受け容れるところとならなかつたこと。そのため若林税理士は、本件減額更正処分に対して審査請求ができるかどうかについて深い考察を加えることなく、第一審被告税務署長に対し更正の請求をしてもそれまでの折衝の経過からして容認されることは期待できなかつたので、第一審被告審判所長に対し本件減額更正処分について審査請求をする途を選んだこと。
4 右審査請求は、所定の用紙を用いて作成された審査請求書(丙第二号証)を裁決固有の機関である第一審被告審判所長宛に提出するという普通の審査請求と何ら異なることのない手続によつてなされたものであり、右書面には審査請求としての所定の事項が一応記載されていたこと。そのため国税不服審判所の受理手続及び形式審査の各担当官はこれが第一審被告審判所長に対する審査請求であることに何の疑問も抱かず、同審判所長は、本件減額更正処分は第一審原告に有利なものであるから、第一審原告にはこれについて不服申立てをする利益はないとの判断のもとに、実質審査をしないで右審査請求を却下したこと。
以上認定のの事実を覆すに足りる証拠はない。
右事実によれば、第一審原告が右認定の手続によつてした請求は、本件減額更正処分についての第一審被告審判所長に対する審査請求そのものであつて、それ以外のものでないことは明らかであり、したがつて、右審判所長がこれを審査請求とみて、それに対応する措置をとつたのであり、当該措置には何ら違法はないというべきである。もつとも、第一審原告の前記認定のような趣旨の不服は、第一審被告税務署長に対する更正の請求をすることによつてその満足を図るべきものであり、前示丙第二号証によれば、第一審原告が第一審被告審判所長宛に提出した審査請求書にも右不服の趣旨が記載されていたことが認められる。そうだとすれば、国税不服審判所において本件審査請求の処理にかかわつた担当官としては、第一審原告に対しその主張の趣旨の不服は第一審被告審判所長に対する審査請求ではなく、第一審被告税務署長に対する更正の請求によつて満足を図るべきことを助言するのが請求人に対する当局の態度としてより親切であつたということができる。しかし、このことはあくまで道義上の問題であつて、第一審被告審判所長の前記対応措置の適否には何らの影響を及ぼすものではなく、本来、審査請求と更正の請求とは全くその性質を異にする行政手続であることからすれば、裁決機関が審査請求の内容を斟酌考慮してこれを他の機関の権限に属する事項に関する請求と解釈し当該機関に送付するというようなことは法律に特別な規定がない限り許されるところではない。
また、<証拠略>によれば、本件減額更正処分の第一審原告に対する通知は、税務署備置きの所定の用紙を用いて作成した書面によつてなされたこと、右用紙には不動文字をもつて処分に不服があるときは、税務署長に対して異議申立て又は国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨が記載されているところ、通常、処分内容が減額更正であるときは、その取消しを求める法律上の利益がないと解されるため、当局において予め右記載を抹消していること、ところが、本件においてはこれを失念したため、外形上、本件減額更正処分についても右不服申立てができることを教示したこととなつたことが認められる。しかしながら、右教示の趣旨は本件減額更正処分の内容に不服があれば、右不服申立てができるというに止まり、第一審原告の前記認定のような趣旨の不服についてその満足を図るには審査請求をすることができる旨を教示したものでないことは右事実に照らして明らかであるから、本件審査請求について国税通則法一一二条を準用ないし類推適用する余地はない。
三 してみれば第一審被告審判所長のした本件審査請求却下の裁決は適法であつて、第一審原告の請求は理由がないものといわなければならない。
二 よつて、原判決中、第一審被告審判所長の敗訴部分を取り消したうえ、この点についての第一審原告の請求を棄却し、第一審原告の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡垣學 磯部喬 大塚一郎)